2年ほど前に次男(当時16歳)が「一人暮らしをしたい」と言い出したのがきっかけで長男(当時23歳)と実家を離れて兄弟で2人暮らしを始めた。
その経緯を説明するとかなり長くなるのでこちらを読んでいただきたい。
二人暮らしはどうなったか
結果から簡単に言うと、二人暮らしは終わった。
期間としてはトータル2年弱ぐらいだっただろうか。
兄弟の仲が悪くなったからではない。
いや、仲も悪くなりそうだったが1番の理由としては「二人暮らしに問題が生じてきた」ので更新が近づいたタイミングで二人暮らしを終わりにする事になった。
正確にいうと「次男が想像したフリーダムでパラダイスな生活にならず予想以上に反して最悪な生活になったから」と言った方が良いかもしれない。
次男が想像したフリーダムでパラダイスな生活とは、自分の理想のスペースにゲーミングパソコンを置いて最低限のバイトの時間以外は全てゲームに勤しみ、ご飯は長男が作ってくれて掃除洗濯すれば食べる事の心配はしなくてよい生活。そして虫がいない生活。
虫がいない生活とは、実家ではいつも出窓やドアを開けっ放しにして空気の入れ替えをする習慣があるのだが、その時に自分の部屋にどんな小さな虫でも入ってくるのが次男は本当に嫌で「引っ越すなら虫の入ってこない場所」と切望していた。
それらの次男の想像したフリーダムでパラダイスがどの様に崩れていったか、そして二人暮らしを終わりにしてからどの様な変化が息子達にあったか、父親の苦悩と無能を交えて話したいと思う。
まず次男の理想のスペースはロフトだった。
一人暮らしをしたらロフトのある部屋に住んでロフトにゲーミングパソコンを置き横にマットレスを置いて手の届く所に必要な物を置く生活を次男は夢見ていた。
「秘密基地みたいな感じかな、ほらドラエモンが押し入れの中で寝ているのに憧れる的な?ハシゴ上がったらロフトに自分の理想のスペースがある生活がしてみたいんだよ、男のロマンだよ」と。
私にはそのロフトのロマンが微塵も理解できなく難色を示したが、そんな私の思いをよそに二人暮らしの物件はロフトのある二人暮らし可能なワンルームのアパートになった。
春先に入居して夏場に差し掛かった頃だろうか、次男からメールが届いた
「死にそう助けて」
と。
聞いても返信がなかったのでアパートに行くと次男が部屋の床に突っ伏して倒れていた。
何があったのかと私が聞くと
「、、、ロフトは無理だ、、、窓のない夏場のロフトはマジでヤバい。暑い空気が全部上に上がってきて尋常じゃない暑さになるんだよ。朝起きたら干からびるかと思った、、」
と、床に顔をつけたままの次男が言った。
クーラーをつければいいじゃない、と私が言うと
「クーラーをガンガンすると下にいる兄が寒いから夜は冷房つけっぱなしに出来ないし、サーキュレーターで空気をロフトに送っても効果なしだったから完全に詰んだ、オワタ」
と絶望感に満ちた顔で私に言った。
私が確認しようとハシゴを上がってみると足を踏み入れたくないぐらいの残酷な暑さだった。暑いというより熱い。
「夏だけ実家に戻るか?」
と、私が言うと
「家にパソコン運ぶの面倒だから、夏だけ兄の横で寝る」
と、なった。
「素晴らしい賃貸物件だ」と思ってあまり考えないで住んでみたら色んな問題が出てくるって事はよくある事だ。私もあった。隣で殺人事件が起こったりとか。マンションの前で発砲事件があったりとか。あれは調べようがなかったけど。まぁ、これぐらいはなんとかなるだろう。
しばらくしてまた次男からメールがあった。
「助けて、家に虫が大量に入ってくる」
と。
詳しく話を聞くと、アパートの近くには川があり、夏は虫がわんさか湧いてくるそうで網戸の網目をかいくぐって入ってくる虫もいたり、夜に家に入る時は玄関のドアを一瞬で閉めないと虫が飛び込んでくるらしい。
私が夜にアパートを訪問した時も「はやく!はやくドアをしめて!早くぅぅぅう!」とゾンビ映画のワンシーンみたいな言い方でまくしたててきた。
虫除けを置いたり窓を開けない様にしても何処から入ってくるのか玄関の蛍光灯には常に小さな虫が付いていて、もう少しで気が狂いそうだと話してきたので
「しこたまお金を稼いで虫のこないマンションに引っ越しなされ」
と私が言うと
「まだ16歳だから深夜とか高い時給のバイト出来ないんだよ」
と、切り返しできたので、父さんはどうする事もできませんという意思をキッパリと伝えたら
「うぅ、、、我慢する」
となった。
昔は山に登ってカブトムシを取りに行ったりしてはしゃいでたのに、、、都会を出ない生活をしてると虫嫌いに変わるんだろうか。私もセミだけは苦手だけど。とりあえず人体を脅かす虫ではないし私は何もしなかった。
しばらくして夏を乗り切ったぐらいの頃だろうか、次男からまた連絡がきた。
「騒音の苦情が来たので夜は静かにしてくださいって管理会社から連絡が来た」
と。
「それはいけない、夜の騒音は気をつけなさいな」
私がそう言いに行くと次男は
「いやいやいやいや、間違いなく大きな声は出してないむしろ声を殺してるよ。隣の人の音も結構聞こえるから壁がかなり薄いんじゃないかなこのアパート。というかゲームしていてパソコンのキーボードを叩くだけで隣の部屋から、うるせぇ!って感じでで壁をドンって叩かれるんだよ。で、ゲーミングキーボードを青軸っていうカタカタ音が大きいのをやめてタイピング音が静かなものに買い変えたんだけどやっぱりドンっ!って壁叩かれるんだよ。で夜10時以降は静かにして下さいって管理会社か、手紙が来たからしばらくゲームやめてたんだけど、兄と少し喋ってただけでドンっ!ってまた来るんだよ。バイトから夜10時に帰ってきて、そこからが自分の楽しいゲーム時間なのに夜にゲーム出来ない生活になって更には家では声を押し殺してるから普段の声が小さくなっちゃうし、最悪だよ」
と、いう感じの事を早口で説明してくれた。
「騒音は気をつけて下さい。どうしてもゲームがしたいならパソコンを実家に置いて通うか、もしくは壁が厚い所にお引越しだね。兄と相談だけど」
私がそんな感じで提案すると次男は
「うぅぅ、、引越しするとお金がキツい。もう少し頑張ってみる」
と言った。
一応、色んな事を長男に確認してみると
「俺は問題なくかなり快適に暮らしてるよ」
との事だった。
たしかに一人でヒョイっと国内外に旅に出かけてしまう長男からしたら大概の所は快適だろうと思う。
意外と長男と次男の性格を私は捉え違えていたかもしれない。次男の方が実家を離れた暮らしをエンジョイ出来るかと思ったがそうではなかった様だ。
私としては、これを機に次男が実家での生活がどれだけ恵まれていたか感じてもらえればなによりと思った。
それから暫くは連絡が無く、色んな事を受け入れて二人暮らしも快適になってきたのだろうと思っていたら、ある時また次男からメールが来た。
「二人暮らしは無理だ」
と。
私は次男をファミレスに連れ出してどういう事かを聞いた。
「いやさ、夜中にご飯食べたいなと思っても兄貴が最近忙しくなったみたいで朝早くから仕事だったりすると部屋の電気つけないでくれって言うから、まっ暗な部屋でで静かにご飯を食べてたんだけど流石にまっ暗い部屋でご飯を食べるのは難易度が高くて洗面所で食べる様になったんだわ、これがものすごくしんどくてさ、で、兄貴も忙しい中で僕のご飯を作り置きしてくれるの悪いから最近はコンビニとかのお弁当ばっかりになっちゃってさ。夜中にお弁当を洗面所で食べてる自分はなんなんだろうと思ったんだよね。というかロフト付きとはいえワンルームに二人暮らしは生活スタイルが違うとキツいって事がちょくちょくあるんだよ。プライベート空間を完全に分けないと兄弟といえども仲が悪くなるんじゃないかと思ってさ」
そんな感じの事を私に話してきたので、兄が忙しいなら逆に一人の時間も多いんじゃない?そしてご飯はそもそも自分で作ればいいんじゃないのかね?と聞くと、
「まぁ、そうなんだよね、、」
そんな感じで次男はバツが悪そうに答えた。
次男が想像した理想の生活が崩れたように、私の想像した「二人なら上手くいくのではないか」という予想というか理想もこの時に崩れてきた。
私は黙ってしばらく考えた。そして
「甘いな、、貴様は、、なんていうか全てが甘すぎる。甘すぎるにも程がある。ハチミツだわ。ハニートーストぐらい甘いわ。実家を離れて苦労してみたいって言ってたじゃねぇか。実家を離れて色々問題は出てくるとは思っていたが、これぐらいの事をなんとか出来ないなら貴様の考える理想的なパラダイスなんて夢のまた夢だわ。そもそも高校も行かないでバイトだけで生活してゲームばっかりして自分の理想通りのパラダイス人生になる訳ねぇんだよ。人生そんな甘くねぇ。実家を離れてもう少し成長してるかと思ったらほぼほぼ変わってねぇじゃねぇか。そして貴様の意見を尊重した父さんの世間体も少しは考えて下さい。そんなんでなんとかなってんのは若い今だけだ。いいか、そもそも好きな事だけする理想の生活なんて長年の積み重ねやとんでもねぇ苦労があっての話で、それをすっ飛ばして好きな事だけホワホワと出来ると思ってると人生とんでもねぇ事故にあうからな。そんな自己啓発に出てくる綺麗事の上澄みだけをいいとこ取りしようったって、そうはいかねぇのよ。今の貴様はただ嫌な事から逃げてるだけにしか見えねぇ。そんなのは個人主義でもねぇ利己主義だ。そんなのはいつか破滅する。自分の身の回りの事もロクにできねぇクセに自分の事しか考えられねぇと歳とって大変になるぞ。それに人生はもっともっと思いもよらない事がたくさん起こるんだYO!」
などなど色々と湧き上がる思いを言おうと思ったがやめた。
よくよく考えたら私が十代の時の一人暮らしはもっと甘かった。もし私の十代の頃の生活を次男に質問されたらガチガチに嘘で塗り固めなければならない。次男がハチミツトーストなら私はトーストにバニラアイスを乗せてハチミツをかけたぐらい甘かっただろう。自分の事を棚に上げていうのはよろしくない。とてもよろしくない。
そして、恐らくこれを私がガミガミ言ったところで次男の心に微塵も刺さる事はなさそうだし、自分が親としての言いたい気持ちを満足させるだけに過ぎない。
親として「こうしないとダメになるぞ」という脅しみたいな呪いみたいな言葉をかけるのも好きではない。
子供の為を思っているようにみせて「親の言う事を聞かないお前はダメになれ」と望んでいるみたいだ。
どんなにちゃんと生きていてもダメになりそうな時なんて何度も訪れる。
言葉の鎖で縛るのは、早く親の価値観から離れてもらいたい私としては好ましくない。
私の価値観を押し付けた所で私の劣化コピーにしかならないだろう。
しかしこのままではいけない気がする。
それにしても私の受け継いで欲しくない部分のDNAをしっかりと受け継いでくれていて目眩がしそうだった。
どうするか、、、。
私はしばらく考えると共に、長男とも話してみた。
「まぁ、あいつは一旦実家に戻した方が良いと思うよ。二人暮らししてると何故だか俺が父親みたいな事になってるんだよ。ご飯作っていつのまにか洗濯や掃除も俺がやっちゃってるし。実家の生活と変わらないからもう少し実家でも良いんじゃないかなと思う。それか一人暮らし。そしてあいつのいう通り、部屋はそれぞれあった方が良いとは思ったよ」
「うむ、、、とりあえず2人暮らしは終わりになりそうね」
と、いう事でその後の二人はどうなったか。
次男は実家に戻ってくる事になった。一度実家に戻ってから今後を考えるという事で。
戻ってくるにあたって私は次男に条件を出した。
高校にも行かないで勉強せずに今と同じ様な生活を続けるつもりなら家賃を払って下さい。インターネット代金込みで月額3万円。18歳以上になっても私がご飯を作るのであれば食費と手間賃もプラスで月額2万円。もし滞納したらしたらその時点でライフラインでもあるインターネットの供給を容赦なく停止する、と。
次男が実家に戻ってきてゲーム三昧でバイトもしないで引きこもりニートになるのを防げればよいし、私が死んでしまっても生活できるぐらいにはなっておいていただきたい、そう考えた。
そして家賃や食費をなどを払ってもらったものは次男の知らないところで積み立てておき、再び実家を離れる時があればその資金にしてもらったり、何かをやりたくなった時の資金の足しにするのが良いだろうと。
次男は
「え?マジで家賃そんな安くていいの?」
と、言っていた。完全に高校に行くつもりも勉強するつもりも微塵も無さそうだった。
私は条件を変更する事にした。
「20歳を過ぎたら1年ごとに家賃が1万円づつ上げます」
と。
次男の返事はとても軽かった。
「オケ」
長男は解約するまでそのアパートにしばらく一人暮らしをして、その後は友人と3人でマンションを借りて3人暮らし始めた。部屋は一人一部屋あるそうだ。
実家に戻るつもりはないのか?と聞いたら
実家に戻ると怠けた生活になりそうだから今は実家には戻らないでおこうと思うとの事だった。
息子達は実家を離れて色々と変化があった様に感じる。
次男は実家に戻ってからはバイト以外はゲームに勤しんでるものの自分の事は自分でやる様に変わっていた。
家賃もきっちり渡してくるのでなんだか自分の息子というより他所の子が下宿してるみたいな感じだ。
(ちなみに今月まではコロナでの給付金があったからバイトは休むそう)
高卒認定(大倹)を取得したが、今のところ大学に進学する気は微塵もないようで「実家サイコーだな。てか、声の大きさ気にしないで毎日ゲーム出来る事が嬉しすぎる」と言っている。
次男いわく20歳までは変わらない生活を続けるそうだ。
最近は麻雀(ネット)にもハマっており
「なあなあ父ちゃん麻雀を一緒に打とうよぅ」
と誘ってくる。もう彼の未来が私には全く想像できない。
とりあえず私も麻雀を勉強する事にした。
長男は実家を離れてからとても変わった様におもう。
実家にいた時はまだまだ子供で風が吹いたら飛んでいってしまいそうな頼りなさだと思っていたが、最近は2人で話していると男同士というか友人と話している感じがする。
私の出来ない事をサポートしてくれたり気が付かない事を指摘してくれたりする頼れる存在になっていた。
少しずつ親の価値観から離れて自分の価値観で生きる事ができているのだろう。
何か気持ちの変化があったのか聞いたら「前までは自分の事しか考えられなかったけど、実家を離れてから少しだけ人の事を考える様になった」と言っていた。
実家に来た時に私の知らない料理を作って振る舞ってくれるのがとても新鮮だ。
長男の変化は言葉にするのが難しいが、寂しくもあり嬉しくもある。
以上が息子達が実家を離れて暮らしたその後と変化だ。
私の携帯のメモに書きとめていた彼らとの出来事をいっきに書いたらかなり長くなってしまった。
彼らのプライベートの事でも色々な出来事があり、それは彼らの許可がおりなかったので書かなかったが、親から離れて生活すると色んな出来事に出会い価値観が変化していくものなのだなと思った。
変化した事が良い方向に転がるのか悪い方に転がるのかはわからないけれど、今後も付かず離れずで見守ってゆこうと思う。
最後まで読んで頂きありがとうございました。